武蔵野美術大学映像学科 総合型選抜 クリエイション資質重視方式 合格作品
制作期間: 約4か月
3DCG
Element 3D

3DCGは、Video Copilot社が開発しているAfter EffectsのプラグインであるElement 3Dを使用して制作した。建物のモデルは同社の「Metropolitan Pack」を購入して使用。車のモデルはYouTubeのMagnetVFXが配布していたものを使用した。

街を覆うフォグの色はもともと橙色で、有機的な温かみが多少存在していたが、すっきりとさせるために白色に変更した。また仕上げにグローエフェクトを全体に適用し、フォグを強調すると共にシーンに一体感をもたせた。
Live-Action
After Effects

実写シーンの撮影は全てスマートフォンで行った。

ディスプレイや写真立てに映っているものは、すべてAfter Effectsで合成している。また、色味や明るさの関係からロトブラシが機能しづらかったため、マスキング作業は全フレーム手作業で行った。
Music
FL Studio

始めと終わりの部分の音楽は自身で作成した。
コジマプロダクションのビデオゲーム『DEATH STRANDING』で使用されている、Low Roarのアルバム『Once in a Long, Long While...』に大きな影響を受けた。
Background
 2450年、地球は空を失った。
 人類は大きな問題を抱えていた。地球全土は人々で溢れかえり、人間の住んでいない場所は無いに等しかった。圧倒的な人口増加だ。1は2へ、2は4へ、4は8へ、8は16へ。人が増えれば増えるほど、人口の増加はどんどん加速していく。それに伴って、人間の住める土地が不足していった。
 人類には捕食者がいなかった。技術を発展させ多くの恐怖を克服し、ここまで繁栄してきた。病気を患う人も今となっては珍しく、人々の死因の9割は老衰だ。人生を全うし、家族に囲まれて死ぬことができる。数千年の時を経て、人類は科学の力で夢のような世界を実現することができたのだ。そして、その世界が人口増加に拍車をかけた。人の生存率が上がれば人の数が増える、至極単純なことだ。恐らくその可能性に気付いていた者はいただろう。しかし人々が健康に暮らせる未来に対し、意義を唱えられる者はいなかった。そうして徐々に徐々に、そして着実に、人口は増加していった。
 地球上全てを埋め尽くした人類。不足し続ける住まい。2347年、世界が下した判断は、新たに土地を築くというものだった。山を拓き海を埋め立てた。そして人類は、次に空を目指した。地球全体の空を鉄板で覆い、その内側に都市を形成することを決定したのだ。この決議には多くの批判もあっただろう。しかし別の画期的な案が浮かんでくることもなく、時が経つにつれ次第に反対派も目立たなくなっていった。そして、2450年、地球は空を失った。
 空のない地球での暮らしは、決して悪かった訳ではないらしい。天蓋にはめ込まれた強力な光源のおかげで、太陽がなくても明るさと温度は保たれていた。なにしろ土地が広がったことで人々の生活には余裕が生まれていた。そしてこれは以前からあったものだが、月の公転を利用した衛星発電が無限に近い電力を生み出し、有機物の組み替え合成化学が無限に近い食糧生産を実現した。
 2598年、人類は大きく衰退した。天蓋型都市は人口増加に対する解決策ではなく、ただの延命処置に過ぎなかった。
Story
 戸を開ける。カランカランという心地の良い乾いた音と共に、生臭い鉄の匂いがゆっくりと流れ込んでくる。慣れ親しんだその匂いに、どこか少し安心感を覚える。真っ暗な部屋の中を、一つの冷たい明かりを目指してまっすぐ歩いていく。店主の好みだろう、妙に軽快な音楽に耳を傾けながら、私はいつものようにカウンターの前にやってきた。
「.........」
部屋を見渡せば、そこら中にあるのは何に使うのかもわからない古い金属片ばかりだ。ときどき大掛かりな機械の類もあるが、こちらも同様、私に分かるものではない。すでに汚れている床にはところどころオイルでできた水たまりがあり、その不潔感をより増幅させている。表の派手なホログラム看板とは裏腹に、全く客を寄せ付けようとしないこの風変わった店は、
『SCRAP TRADER』
いわゆる質屋である。スカベンジャーにとっては生活の大きな支えとなる、なくてはならない“必需店”だ。
 ガラガラと大きな音をたて、店主が奥からやってくる。私は集めてきたスクラップ類を種類別にカウンターの上に綺麗に並べる。この方が店主が数えやすいのだ。カウンターを挟んで私の前に立った店主は、無言でスクラップを鑑定し始める。厚い手袋をはめているのにも関わらず、とても繊細で慣れた手つきである。店主が鑑定をしている間は一切の言葉も交わされない。というより、この店主はそもそものところ無口なのだ。私自身、あまり多くの人に会ったことがないから比べようはないのだが、口数は少ない方だろう。
「8と15...」
ジャラジャラとカウンターに通貨が置かれる。
「あと...... これなんだが...」
店主が一つの小さなスクラップを手に取って言う。
「...この辺りではこんな形のものは見たことがない。知らないものは鑑定をすることができないから…、悪いが...これは持って帰ってくれ。」
手短にそう言うと、店主は店の奥へさっさと戻って行ってしまった。
 脇に車を止め、見上げるほどの高さの建物へ入り、301と彫られたドアを開け、帰宅する。道中で買ってきた、甘い粉のかかったパンとぬるい玉ねぎのスープを飲み込み、質屋で稼いだ通貨を数え、整理する。そんないつも通りの時間の中で、常に私の頭の中には、あの小さなスクラップがあった。スクラップ類には精通しているはずの店主が見たこともないと言ったのは、今日が初めてであった。もしかしたら、私は何かすごいものを拾ってきてしまったのではないか。とても古い金属片を拾ってきてしまったのではないか。遠くのもっと大きな質屋へ行けば、鋼盤100以上の価値で鑑定されるかもしれない。そんな淡い希望を胸に、私の好奇心はその小さなスクラップが何であるかを確かめる必要があると言っていた。
 バッグの奥底の小さなスクラップを手に取り、ゆっくりと持ち上げる。するとあろうことか、突然そのスクラップから光が発せられる。時間をかけてくまなく調査するつもりでいた私は、意外すぎるこの出来事に拍子抜けしてしまう。しかし、その小さなスクラップの発する光を見て、私はさらに驚くことになる。その光は、ホログラムであった。そしてそれは、『0 0 3 4 5 1』と不規則に並んだ6桁の数字と、その下には『Reflect_Serial-Code』の文字を映し出していた。
 Reflectといえば、数百年ほど昔に存在していたあの超大企業のことだろう。今でもその痕跡は至る所で目にすることができる。そこら中に立ち並ぶ高層建造物群、私の生命線である車、そしてさっき食べ終えたばかりの食品類。その全てにReflectのロゴが刻まれている。遠い昔、Reflectはなぜそこまで大きな拡大に成功し、そしてなぜ衰退していったのか、今の私たちには知る由すらない。現代を生きている数千万人あまりの人間たちは、そのReflectが遺したものを上手いことやりくりすることで、ここ400年間を生きながらえてきた。と、そんな感じのことを昔に父が言っていたことを覚えている。
 私は突然起動したホログラムを見るなり、急いでパソコンを起動した。パソコンといっても、スカベンジャーの仕事ついでに拾ってきた廃品をもとに私が私なりに作り出したものだから、過去にパソコンと呼ばれていたものとは似ても似つかないだろう。そして、大手インターネットブラウザであったReflect Engineを開き、Reflectのホームページにア
クセスする。当たり前のように普段利用しているが、インターネットというものはすごい技術だ。数多の情報を半永久的に記録し、何千億人もの人々がそれをいつでも見ることができる。社会は情報を主軸に回っていた。たった今思いついた言葉だが、その社会を”超情報化社会”と呼ぶのはどうだろうか。我ながら悪くないネーミングだと思う。そんな人類の究極技術のようなインターネットは、実は1世紀ほど前から存在している、と以前聞いたことがあるが本当なのだろうか。Reflectのホームページを開くと、そこには企業案内や主な事業、見るだけで眩暈がするような数の広告や関連リンクがあった。しかしそのほとんどはリンク切れしているようで、ホームページの右上には小さい字で《最終更新日 2598年 11月 29日》と記されていた。そしてそこにもう一つ、青い小さな字が記載されていることに気がつく。
《Reflect_Serial-Code》
私はその文字列を見るなりすぐにそのページをクリックし、パソコンのモニターは一つの大きなテキストボックスを映し出した。好奇心に突き動かされながら、私は素早い手つきでさっきの6桁の英数字を入力する。店主さえ見たことのなかった希少なホログラムプロジェクター。一体何が見られるのだろう。どんな情報が私を待っているのだろう。そのシリアルコードの先には何かがある、という確証は一切なかった。これっぽっちもなかった。ただ大きな好奇心が私を操っているだけであった。こんな感覚は、実に久しぶりであった。
 テキストボックスが数字を認証する。1つのデータが読み込まれる。真っ暗な画面が映し出される…。それは一本の映像だった。内容は、遥か昔に行われたイベントに関するものだった。当選すればリゾート地に建てられた一軒の家がReflectから寄贈される。今では考えられない夢のような大イベントだ。どうやら当選者のみに送られたもののようで、どうりで店主が見たことのない型なわけだ。しかし400年近くも前のイベント情報を私が見たとこで、何の価値もない。今を生きる人間にとってはあまりにも贅沢すぎる内容で、少し嫉妬のようなものまで感じてしまう。見るだけ時間の無駄であった。私はそんな動画に、気づいたら釘付けになっていた。
 1つのシーン。たった1つのシーンが私を呼び止めた。そこにはまるで鉄の砂を散りばめたかのような、キラキラと輝いたものが、一本の川のように少し青みがかった暗い空に浮かんでいた。「天の川」だ。私は10年ほど前に、廃ビルでとある絵を拾ったことがある。そこには今画面に映っている星々と似たようなものが描かれていた。私は初めてその絵を見たとき、私の心の中に今まで感じたことのない何かが生まれたのを感じた。『美しい』という言葉では表現し切れないが、『美しい』という言葉でしか表現できない。私はその絵に対し、そんな感情を抱いていた。そしてその絵の隅には小さく「天の川」と手書きで書かれていた。私は「天の川」に一目惚れしてしまっていたのだった。しかし今では分かる。その「天の川」の絵は、絵のようで絵ではなかった。写真だったのだ。そして実際に今、目の前で動く映像の中に、「天の川」は存在している。人伝いに聞いたことはあった、「空」「星」「宇宙」。規模が大きすぎるものばかりで、全て幻想のものだと思っていた。ファンタジーの中にのみ存在できる美しいものだと思っていた。見たことなんてあるはずがなかった。私たち人類がひっそりと今暮らしているこの世界。頭上を見上げれば、空間は全て廃都市で埋め尽くされている。空や宇宙なんてものは存在せず、世界の果ては金属の壁だと。世界というものは案外小さいものだと。そう思って今日を生きてきた。しかしたった今、この一本の映像が私の常識を大きく変えた。数百年も前のちっぽけな映像が、私の世界を大きく広げた。「天の川」は存在する。それに伴って、「星」「宇宙」無論「空」も存在するのだろう。世界の果てだと思っていた、頭上に佇む金属の壁と廃都市。もしかしたらその向こう側に、果てしない大きな大きな世界が存在しているのかもしれない。「天の川」よりも私の心をうつ何かがあるのかもしれない。なんて夢のある話だろうか。
 そして動画の中にはもう一つ、気になるところがあった。私たちの暮らすこの「星」は、金属の壁に覆われているはずだ。しかしこのPVのリゾート地は赤道付近に建てられており、どうやらその壁にある小さな隙間のちょうど真下に位置しているらしい。だからそのリゾート地では「天の川」を見ることができるわけだ。そう、実は金属の壁には小さな隙間が存在していたのだ。そんなこと、今まで考えもしなかった。ということは、その場所にたどり着くことができれば、私も「天の川」を観測することができるのかもしれない。「空」や「宇宙」を、この目で実際に見ることができるのかもしれない。そう思った瞬間から、私の体は動き出していた。たった一本の映像を鵜呑みにし過ぎてしまっていることは私も分かっている。しかしこれほど私の心を動かしたものを、本当に見られるのかもしれない。その可能性を目の当たりにして、どうしてじっとしていられるというのだろう。今あるだけの食糧を一つにまとめ、ポータブル機器類と一緒にバッグに詰める
どれだけの長い旅になるかは分からなかった。もし食料が足りなくなったら、途中でそこらの廃ビルから廃品を集めて、その近くの質屋に売ればなんとかなるだろう。靴紐を結び直し、部屋の戸を開ける。ゆっくりと入ってくる生暖かい空気は、なんだかいつもより爽やかに感じた。車に乗り込み、電源をONにする。「Reflect Auto」のロゴのホログラムが私の車の側面に白く浮かび上がる。もういつでも旅を始めることができる状態だ。目指すは赤道。そこで頭上を見上げれば、空いた壁の隙間から「天の川」を見ることができるはずだ。しかし毎度“壁の隙間”と言うのもなんだか少し味気ない。では以前ファンタジーものの本で読んだ、「南極」に生成されるという大きな隙間から、
 “Crevasse”
とでも名付けよう。廃ビルで拾った「天の川」の写真をフロントガラスに立て掛けて、私は車のアクセルを静かに踏み込んだ。

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